JOURNAL

Interview
Harri Koskinen Vol.2

北欧生まれのタイムレスなデザインを。
コスキネンがMAJA HOTELにこめたフィンランドデザインの思想に迫りました。

  • インタビュー:ハッリ・コスキネン
  • 聞き手:山田泰巨
  • 写真:永井泰史(フィンランド)・蛭子 真(京都)
オリジナルでデザインされたハンガー。
充電用のUSBコネクター、コンセントタップ、調光器や照明用タイマーなどを備えた盤もオリジナルのデザインです。
各階の案内板、居室のルームナンバーを示すサインなどもコスキネンによるグラフィックです。

コスキネンと日本のチームは、まず細長い敷地にどのように機能を置き直すか時間をかけて話し合ったといいます。
「実は屋上にサウナを作る案もあったのですが、法的な制約もあってそれは実現できませんでした。けれどそれに代わる居心地の良さは実現できたように思います。館内の多くに木の合板を使い、一人用のブースや2段ベッドを組み立てています。木は温かみや柔らかさのある素材であり、音の広がりを抑えることも狙いにありました。小屋内のコートハンガーや梯子も私がデザインしたオリジナルで、肌に触れるときの質感を重視しています」
そのこだわりは、各居室用に照明や電源機能を集約したパネルの開発にまで至りました。
「ここでは月の光をイメージして明暗をコントロールできるプログラムを採用しています。読書灯としてはもちろんですが、アラーム機能がついているので朝になると明るくなって自然と目が覚めるものにしています。テキスタイルもどこか親しげな印象を与えるのは、家形・小屋形のパターンになっているからです。すでにお話したようにMAJAとは、巣、住処、小屋、隠れ家といった意味などをもつので、それを思わせる親しみやすい形を探りました。

ブルーとグリーンが鮮やかな《マリメッコ》制作のオリジナルファブリック〈MAJA KIOTO〉。グリーンは客室内のカーテンなどに、ブルーはポーチなどに使われています。

岩手県で手掛ける新たなプロジェクト〈IWATEMO〉の椅子。ロビーをはじめ、館内の随所に設置されています。

またコスキネンは《MAJA HOTEL KYOTO》の計画において、フィンランドを代表する2つの企業に協力を仰ぎました。ひとつはコスキネンがキャリアの初期からデザイナーとして活躍し、2012年から00年まではデザイン・ディレクターとして新たな可能性を牽引した《イッタラ》。もう一つの《マリメッコ》とは、なんとオリジナルのテキスタイルを制作するに至りました。
「フィンランドを代表する二社に協力をお願いし、なかでも《マリメッコ》とは特別なモデル〈MAJA KYOTO(マヤキオト)〉を製作しました。この柄は《MAJA HOTEL KYOTO》のためだけに作られた特別なもので、小さな家が連なったようなパターンは私がデザインしました。居室のカーテン、リネン製の白いシーツやカバー、そしてアメニティ用のポーチで使っています。《イッタラ》は、《カフェ アアルト》や2階の共用スペースで使用するアイテムに使っています。ほかにも私が岩手県から依頼を受け、地場産の手工業を国際化していこうというブランド〈IWATEMO〉の家具もいれています。友人のデザイナーとヴィッレ・コッコネン(2009〜14年までアルテックでディレクターを務める)とともに岩手とフィンランドの対話を行い、小さなアイテムからスタートしているものです」

事務所で製作した、鉄板を折り曲げた照明器具の試作。
スウェーデンの老舗テキスタイルメーカー《スヴェンスクテン》から2017年に発売されたテーブルランプ〈シャドウ〉。フロアランプも作られています。
フィンランドのオーディオ機器メーカー《Genelec》から発売されている〈8351A〉。レコードプレイヤーなど、音楽にまつわる道具も数多くデザインしている。
アメリカ・シアトルの家具メーカー《MEMO》から発表された〈Chroma〉。オフィスでの仕様を想定したラウンジチェアとスツール、テーブルからなる家具シリーズ。

温かみある空間に私たちはどこかフィンランドらしいデザインを感じることができます。コスキネンは日本独自のホテルであるカプセルホテルのあり方とフィンランド・デザインをどのように繋いでいったのでしょうか。
「フィンランドは小さな国ですが、アルヴァ・アアルトやカイ・フランクをはじめとする素晴らしいデザイナーを幾人も輩出しています。私は彼らの共通点を、語りかけてくるようなデザインにあると考えています。なかでも1950〜60年代はフィンランド・デザインの黄金期で、現在までアイコンとしてよく知られる数多くの名作が発表されました。一方で、その印象がいまも根強いとも言えるのですが……。彼らのデザインはいずれもフレッシュでシンプル、そして時代を問わないモダンな佇まいが特徴的です。そこには、彼らがデザイナーとして人々をよく見ていたことが読み解けます。いずれも心地よいコンパクトなサイズ感で、人のための空間を作っていることも見えてくるのです。わたしもそれを踏襲しているのかもしれません。
実のところ、いまはデザインのうえで、素材、技術、フォルム、プロセスのどれをとっても世界的にあまり大きな違いはありません。デザイン教育も国ごとで大きくは変わらないように思います。ただ一方で表現は多様化され、回答のあり方も大きく広がっています。たしかにフィンランドで生まれ育った私たちには独特の形の捉え方があるのかもしれません。私はフィンランドのデザインとは、FORM=機能的であり、FOLLOWS=人の身の丈にあったサイズ感であり、FUNCTION=機能的でロジカルに作られるものであると考えています。ただ形をつくるのではなく、それらを考えてこそフィンランドらしいデザインと言えるのではないでしょうか。《MAJA HOTEL KYOTO》でもそれを大切にしています」
こうして京都に、フィンランドのデザインの系譜を受け継いだホテルが完成したのです。シンプルだけど心地よく、隅々まで触れたくなる温もりがある。森と湖の国に学んだ宿泊体験をぜひ体験してみてください。